Stanza della Luna

雑多な詩集

愛しい空

少し淡く深くなった9月の朝の青
綿雲がふわふわと彩る空は
いつか見たヨーロッパの油絵

 

構図の半面に張り巡らされた
蜘蛛の巣のような電線は
完璧な自然に人間が施した 

悪意のない暴力のよう

 

私はその空を見て
電線も電柱もない完璧な空を想像する
青はただ青く、淡く
雲はただ白く、たなびく

 

美しいけれど 現実味のないこの街
築き上げた全てがなかったことにされる原始

 

もう一度空を見る

蜘蛛の糸と同じ 

生きるための

電線の向こうの空は美しく
電線が行きつく窓には
今夜も明かりが灯る

 

蜘蛛の巣のように張り巡らされた
私たちの便利

誰かが張り巡らしてくれた
私たちの暮らし

 

蜘蛛の巣のある景色は
蜘蛛の巣のない景色より
完全な自然より
愛おしい

 

 

着地

ある日 緑の風が吹いて

 

弟や妹がピンクの花びらを揺らして

行ってらっしゃいって笑った

 

緑の風はどこまでも

私と走りたがったの

 

気づいたら風がやんで

私はふんわり着地した

おうちと同じ土のにおい

懐かしいにおい

 

ここが旅の終わりなのか

わからないけれど

 

ちょっと疲れたみたい

とりあえずここで 少し休もう

 

一番高い鉄塔にとまり

彼が世界を見渡している

 

彼は美しい

 

彼の翼は夜の闇より黒い

彼のくちばしはエボニーより滑らかで

彼の瞳は黒曜石よりつややかだ

 

でも 彼を見るとみんな嫌な顔をする

誰も彼をほめない

誰も彼を愛さない

 

彼の声はあんまりきれいじゃなくて
あんまり上手に歌えないからか

 

光るものが好きで
見つけたらすぐほしがるからか

 

彼が彼だから
好きになってもらえないのか

 

彼が生きるために
していることは悪か


彼の存在は
忌むべきものなのか

 

彼の自慢の
翼 くちばし 瞳

その美しさを
誰も否定しないが

 

彼は
いつも邪険にされる

 

一番高い鉄塔にとまり

世界を見渡している彼は

 

本当は

私なのか

The Core

塗り重ねる日々に 立ち止まって思う

私の核心となるもの それは何なんだろう

 

仕事 恋 家族 いつも裏切るもの

私が立ち返る場所 それはどこなのだろう

 

私であることの真ん中に 何があるのだろう

何をよりどころに 塗り重ねればいい?

 

何もないような 何かあるような

でも生きてるし これからも生きていく

 

毎週欠かさずに 見てたドラマが終わって

私の人生って突然 色あせたりするけど

 

永遠を探して さまよった挙句に

そんなのどこにもないと知り 呆然とするけど

 

私であることの真ん中に 何もないのならば

もうとっくに私 私じゃないはずだもの

どんな色だとか 形はともかく

ずっとあったよ これからもそこにある

いつも抱いてた 自分ではない誰かへのあこがれ

背伸びしたって 

ここ以外の どこにもたどり着けなかった

私以外の 誰にもなれなかった

 

自分守るため 心固めて ガチガチになって

信号も止まれと告げている

行き止まりの毎日

 

似ている日々の繰り返し

 

ある日 風が吹いた

日差しが少し明るくなった

まぶしさに重いまぶたを開いたら

 

信号の色が変わっていた

 

ずっと「かなわない」と思い込んでた

「あの子にはなれない」

 

青信号を見て ブレーキをゆるめたら 気づいたんだ

「あの子だって 私にはなれない」