春の魔女
雪と氷に閉ざされた町に
優しい魔法が忍び込む
静かな夜に屋根を打つ雨音に
凍り付いた全てが
溶けだす気配満ちる
重く固い根雪も
やわらかな しずくになって
地面の中 音も立てず
小さな種が目を覚ます
縮こまった木々の枝が
花を咲かす準備を急ぎ出す
今年の春の魔女が
町中に降り注ぐ最初の雨は
全てを優しく濡らして
氷の魔術は もう解ける頃
氷のとげが心に刺さった私は
身動きの取れない
長い冬に どこか
安住していたけれど
春の魔女が
この町に来る頃
私も旅立つ 準備を始める
思い出せない
更地に新しい建物が建つ
ほんの数ヶ月前までそこに何があったのか
思い出せない
心をふるわせる
コトバの綾が 確かに横切った
なのにその模様が どうしても思い出せない
胸を焦がして想ってた人とすれ違う
その人に焦がれたのか
自分で作り出した幻想に恋したのか
もうそこにときめきはなくて
愛し方が思い出せない
日曜だというのに早起きして
掃除や洗濯、とくるくる働いた
なのに 最近 まぶたが開かない
やるべきことはある
なのに 昼過ぎまで
起き出すすべが思い出せない
しょっちゅうおどけて はしゃいでいた
でも最近は ひたすら自分を保つ
架空の自画像を 失うのが恐い
自分を捨てる あの瞬間が思い出せない
思い出せない過去は 私のさなぎだったのか
それとも逆らう流れの背後で
ただ深い淵に 落ちて行ったのか
いつだったか 小さな結論に行き着いた 気がするけど
思い出せない
思い出せない
器用貧乏
とりあえず たいていのことは それなりにできる
あれこれと 手を出しては 自分を開拓
もう少し これをやる時間があればなあ・・・
あれも これも 中途半端 そしてパニックになる
いわゆる器用貧乏 いろんなことに興味がある
だけど だけど 何一つ 一流には出来てない
なまじっか 理解力があり それなりにわかる
適当に 頭も使って 頑張ってるほう
その先に 何かある いつも期待して
どれも これも やり切れない そしてパニックになる
いわゆる器用貧乏 不器用であり 器用であり
きっと きっと 探してる 本当の自分らしさを
luna piena
遠くへ来た
ここまで来た
こんなに遠くまで 来たと思ってた
歩きつかれた私は
道ばたに腰を下ろす
ぽっかり浮かんだ満月が
私を見ている
透き通った満月が
私を見ている
うさぎなんかいない
かぐや姫もいない
でも 同じ月
ずっと同じ月が私を見ている
こんなに遠くまで来た
逃げるようにして
休まずここまで来た
「まだこんなところだった」
それが悲しくもあり
どこかあの満月のように
透き通った私の体を
風が吹き抜ける
そんな気がした
会いたくて 会えない人
心がちぎれるほど
寂しくて 恋しかった
もう季節は変わり
傷口はふさがったように見えるけど
奥のどこかで今も 血がにじむような
痛みが消えずにいる
小高い坂の上から あなたの住む町が見える
そして私は
あなたの心のどこかに
今も私の住む場所があると信じようとしてる
私の心にずっと あなたがいるように
会いたくて 会えない人
あなたは変わってしまったと思っていたけれど
きっと変わったのは私の方
あなたに会う前に 戻れない
この血のにじむ痛みのせいで
Far Away
ひとりになるために 遠くに来たけれど
どこに行っても 何も変わらない
しゃべり方 好きなテレビ ひねくれた笑顔
猫背 人目を気にするところも
夜明け前の空気が ぼんやりと染まり始めて
どこからか朝が 漂ってくる
冬の花は 凍るような朝に咲く
たとえ愚かだと 笑われても
中央帯 霜のついた赤い花
花びらのふちは茶色く傷ついて
それでも赤い花
咲いている
カーステレオから流れるモーツァルト
遠い時、遠い場所で朽ちた
その人がいなければ
今日 このメロディはない
どんなに苦しい人生だったとしても
その人がいたか いなかったか
それはとても意味のあること
私がいることも同じなのかな
頭の中でいろいろ考えすぎるのは私の悪いくせ
何も変われないのに
それだけで疲れてしまうのに
だけど なんだかんだと こうして
夜が明けてくのを目の当たりにしたら
それでいいんだと思うの
それがいいんだと思うの
Present
まだ風は冷たいのに 光がどこか透き通って
早咲きの花の香り ただよう
見たことのない小鳥が 梢で羽を休めてる
話しかけたら おしゃべりできそう
It must be a present from angels, since it's your birthday, today!
こんな空の下で生まれたひと
その朝もこんな風 吹いていたのかな
昨夜からの霧雨が 朝の光にバトンタッチ
空に浮かぶ七色のリボンは あなただけほどける
Happy, happy birthday to you.
空も、風も、光も、今日は歌ってる
そして私には あなたが生まれてきてくれたことが
一番のプレゼント