Stanza della Luna

雑多な詩集

新しい一歩

あなたがいなくなってしまって

無意識に私は

立ち止まっていたんだね

 

季節の中の一つひとつのかけらに

全部あなたがいるから

 

違う花が咲くたびに

あなたに話したくなったりして

 

変わらない世界から

あなただけが消えてしまったことに茫然として

気づけば同じ場所に

ずっと立ちすくんでいた

 

気づいたんだ

目の前の扉が少し開いているのに

 

垣間見る向こう側の景色は

世界は絶えず動き続けていると教えてくれる

 

扉の向こうに

一歩踏み出してみる

 

世界はもう生まれ変わっていて

前と同じなんかじゃないんだね

 

あなたがいない世界を

一歩ずつ歩む

どんな一歩でも

一歩ずつ歩む

 

築いていく新しい世界に

あなたはいないけれど

 

優しい人がたくさんいて

 

それぞれに悲しみを背負って

 

時々はあなたの思い出話だってする

 

新しい一歩が教えてくれる

生きている意味は

思ったより優しく、温かいよ

日常

日常は

打ち寄せる波のように

容赦なく押し寄せ

泳ぎ続けないと

のみ込まれてしまう

 

日常は

絶えず新たな難題を生み出し

得体の知れない魔物を生み出し

それと戦うために

夢を見る間もない

 

日常は

夜明けと共に世界を照らし

立ち止まりそうな時

それを許さない

 

進み続けるうち

私が背負う

途方もない悲しみは

いつのまにか

少しずつ 

少しずつ

小さくなっていく

 

日常は非情で

その分どこか優しい

 

日常は容赦なく

日常は優しい

 

あなたのいない世界

カーテンから差し込む光

ニュースを読むアナウンサーの声

カップに注ぐ紅茶の香り

まるでいつもと同じ朝

 

一人暮らす部屋の窓から見る

少しくすんだ空の柔らかな光

川辺に揺れる草の波

深くなる木々の緑も

全部いつか見たのと同じ

 

だけど、この世界にもうあなたはいない

 

駅前を行き交う人はいつもと変わらず足早で

制服姿の高校生達が笑い転げている

みんな気づいていないみたい

 

この世界にもうあなたはいないのに

 

何一つ変わってないみたいな世界に

私は立ちすくむ

 

あの場所に行っても もうあなたに会えない

あの番号にかけても もうあなたと話せない

あなたの愚痴を聞くこともないし

私の愚痴を聞いてもらうこともない

他愛のない話で見せる

あの笑顔を見ることもない

 

あなたのいない世界で

私は今までどおり生きる

今までどおりじゃない世界で

あなたが教えてくれたように

あなたが生きていたように

あなたが光を与えたように

 

私は生きて行く

うかれる権利

うかれて 傷ついて

落ち込んで 反省して

 

またうかれて 傷ついて

落ち込んで 反省して

 

そんなことを繰り返して

いつしか

傷つかないために

賢く臆病に生きる

術を身につけた

 

期待しなければ 

失望することもないもの

 

うかれる人が愚かに見えて

うかれる人が本当はうらやましくて

うかれたらまた傷つくのが恐くて

うかれるのが恐くて

 

傷だらけの私

うかれる権利がないから

うかれたらバチが当たるって思ってる

 

 

 

なくしものの国

なくしたものは 

さがしても、さがしても 

見つからないのに

 

ある日ひょっこり 

もう さがしたはずの場所から 

出てきたりする

 

まるで「ボクのありがたさがわかったでしょう?」と

私をこらしめたかったみたいに

 

きっと世界のどこかには 「なくしものの国」がある

 

いいかげんな持ち主に

忘れさられたもの 

ぞんざいに扱われたものたちが

 

「もう帰るものか」

「うんと困ればいい」

「せいせいした」

「ここは気楽でいいわ」

 

・・・なんて楽しげに暮らしてる秘密の場所

 

それでも さがしてほしくて

それでも みつけてほしくて

ほんとは もとの場所に帰りたくて

こっそり ため息ついたりしてるんじゃないかな

 

ある日 ひょっこり帰ってきた なくしものは

何事もなかったように装いながら

どこかまだ迷ってるようで

 

「ごめんね」って話しかけたら

「フンっ」て笑ったみたいな気がした

雨音

雨音が屋根をたたく

「もう冬も終わるよ」と地面をぬらす

 

わかってる 春は近い

でも あと少しだけ このままがいい

 

4月から あなたがいない場所で生きる

 

悲しみに耐える力を下さい

一人でもちゃんと 笑って生きていけるように

あなたがいない場所でも 私らしくいられるように

 

眠れないこんな夜は 

あなたが好きと言った歌を流す

 

やわらかな風に似てる

風のようなあなたに似てる

 

あなたからたくさんもらった 勇気抱いて

悲しみに耐える力に変える

 

だからあと少し あと少し必要

準備期間 

緑が芽吹くための

 

記憶の重さ

みんなが覚えてること

私だけが覚えてなかったり

 

私が覚えてること

みんなは忘れてしまっていたり

 

同じ時を 過ごしていても

思い出は 同じじゃない

 

価値観は 人それぞれだから

それは 当たり前だけど

 

私にとって 大切な思い出

あなたが忘れてしまったと 知ったとき

 

かなしくて

心の片隅が 

小さくひび割れた

 

記憶の価値観も 人それぞれで

大切じゃないことは きっと忘れてしまう

 

あなたにとって どうでもいいこと

私には とても大切な思い出でも