Stanza della Luna

雑多な詩集

夏とスイカと麦わら帽子

少し古びたたたみに寝ころんで

おなかにバスタオルをのせてうとうとすると

目が覚めるころ庭先はセピア色に染まって

蝉の声が「もう夕方だよ」と大合唱してた

 

私より背の高いひまわりが

空を見上げてる道を

プール帰りに歩いていると

入道雲モクモク 雷ゴロゴロ

短い夕立がいつも熱をさらっていった

 

ちゃぶ台に三角のスイカ

塩なんてかけないほうがおいしいのになんて思いながら

時々うっかり種をのみ込んで

芽が出てきたらどうしようって気にしたっけ

 

ラジオ体操や

高校野球の音が聞こえてた

 

麦わら帽子かぶって

虫取りに行ったり

扇風機に向かって

「あー」って言ったり

ちっぽけだけど楽しい夏の思い出

 

冷房の効いた部屋で思う

 

あんな夏は今もどこかにあるのかな

新しい一歩

あなたがいなくなってしまって

無意識に私は

立ち止まっていたんだね

 

季節の中の一つひとつのかけらに

全部あなたがいるから

 

違う花が咲くたびに

あなたに話したくなったりして

 

変わらない世界から

あなただけが消えてしまったことに茫然として

気づけば同じ場所に

ずっと立ちすくんでいた

 

気づいたんだ

目の前の扉が少し開いているのに

 

垣間見る向こう側の景色は

世界は絶えず動き続けていると教えてくれる

 

扉の向こうに

一歩踏み出してみる

 

世界はもう生まれ変わっていて

前と同じなんかじゃないんだね

 

あなたがいない世界を

一歩ずつ歩む

どんな一歩でも

一歩ずつ歩む

 

築いていく新しい世界に

あなたはいないけれど

 

優しい人がたくさんいて

 

それぞれに悲しみを背負って

 

時々はあなたの思い出話だってする

 

新しい一歩が教えてくれる

生きている意味は

思ったより優しく、温かいよ

日常

日常は

打ち寄せる波のように

容赦なく押し寄せ

泳ぎ続けないと

のみ込まれてしまう

 

日常は

絶えず新たな難題を生み出し

得体の知れない魔物を生み出し

それと戦うために

夢を見る間もない

 

日常は

夜明けと共に世界を照らし

立ち止まりそうな時

それを許さない

 

進み続けるうち

私が背負う

途方もない悲しみは

いつのまにか

少しずつ 

少しずつ

小さくなっていく

 

日常は非情で

その分どこか優しい

 

日常は容赦なく

日常は優しい

 

あなたのいない世界

カーテンから差し込む光

ニュースを読むアナウンサーの声

カップに注ぐ紅茶の香り

まるでいつもと同じ朝

 

一人暮らす部屋の窓から見る

少しくすんだ空の柔らかな光

川辺に揺れる草の波

深くなる木々の緑も

全部いつか見たのと同じ

 

だけど、この世界にもうあなたはいない

 

駅前を行き交う人はいつもと変わらず足早で

制服姿の高校生達が笑い転げている

みんな気づいていないみたい

 

この世界にもうあなたはいないのに

 

何一つ変わってないみたいな世界に

私は立ちすくむ

 

あの場所に行っても もうあなたに会えない

あの番号にかけても もうあなたと話せない

あなたの愚痴を聞くこともないし

私の愚痴を聞いてもらうこともない

他愛のない話で見せる

あの笑顔を見ることもない

 

あなたのいない世界で

私は今までどおり生きる

今までどおりじゃない世界で

あなたが教えてくれたように

あなたが生きていたように

あなたが光を与えたように

 

私は生きて行く

うかれる権利

うかれて 傷ついて

落ち込んで 反省して

 

またうかれて 傷ついて

落ち込んで 反省して

 

そんなことを繰り返して

いつしか

傷つかないために

賢く臆病に生きる

術を身につけた

 

期待しなければ 

失望することもないもの

 

うかれる人が愚かに見えて

うかれる人が本当はうらやましくて

うかれたらまた傷つくのが恐くて

うかれるのが恐くて

 

傷だらけの私

うかれる権利がないから

うかれたらバチが当たるって思ってる

 

 

 

なくしものの国

なくしたものは 

さがしても、さがしても 

見つからないのに

 

ある日ひょっこり 

もう さがしたはずの場所から 

出てきたりする

 

まるで「ボクのありがたさがわかったでしょう?」と

私をこらしめたかったみたいに

 

きっと世界のどこかには 「なくしものの国」がある

 

いいかげんな持ち主に

忘れさられたもの 

ぞんざいに扱われたものたちが

 

「もう帰るものか」

「うんと困ればいい」

「せいせいした」

「ここは気楽でいいわ」

 

・・・なんて楽しげに暮らしてる秘密の場所

 

それでも さがしてほしくて

それでも みつけてほしくて

ほんとは もとの場所に帰りたくて

こっそり ため息ついたりしてるんじゃないかな

 

ある日 ひょっこり帰ってきた なくしものは

何事もなかったように装いながら

どこかまだ迷ってるようで

 

「ごめんね」って話しかけたら

「フンっ」て笑ったみたいな気がした

雨音

雨音が屋根をたたく

「もう冬も終わるよ」と地面をぬらす

 

わかってる 春は近い

でも あと少しだけ このままがいい

 

4月から あなたがいない場所で生きる

 

悲しみに耐える力を下さい

一人でもちゃんと 笑って生きていけるように

あなたがいない場所でも 私らしくいられるように

 

眠れないこんな夜は 

あなたが好きと言った歌を流す

 

やわらかな風に似てる

風のようなあなたに似てる

 

あなたからたくさんもらった 勇気抱いて

悲しみに耐える力に変える

 

だからあと少し あと少し必要

準備期間 

緑が芽吹くための