Stanza della Luna

雑多な詩集

私の中に密やかに
命を生み出す
清廉な泉があった


雑踏の届かない
静かな木立に囲まれて


清らかな水を
湛える


水面に光が躍る


無垢な泉だった


ある日
木立をなぎ倒して
怪物が来た


泥だらけの
薄汚い靴で
不愉快な
悪臭を放つ

 


暴力的なやり方で
泉を
不浄なものにした


泉の水は泥で濁り
よどんだ悪臭を放つ


水面の光も
消えてしまった


私の中の泉が汚され


私は内側から
崩壊した


濁った臭い水は
私の意思と乖離して
濁った臭い怪物を呼んでしまう


虚しさと痛みだけが
私の全てだ


木々の間を縫って
時々光が届いても


ああ


その光が
この水面で
躍ることはもうない


もしここに
命が生まれても
薄汚い怪物の
ゆりかごになるだけ


たとえあの光が
私の洞を満たしても
この際限のない空虚の
深さを知るだけ

 

 

 

 

 

 

ノイズ

遠い街のラジオ局で誰かが話す声にチューニングする
 
声は見えない電波になって
空を 
山を 
荒野を 
川を 
湖を渡ってくる
 
その電波を
私のラジオが捕まえる
 
ある時は言葉になる
ある時は深夜の木枯らしのようなざわめきに
ある時は打ち寄せる大波が砕ける音に
ある時は無機質なノイズになる
 
ノイズが声なの
声がノイズなの
それはだれの声なの
ノイズの中に言葉があるの
声は言葉なの
 
大きな工場を通り過ぎる時
音は言葉ではなくなる
ノイズにただ耳を澄まし
何か意味を探す
ただノイズに耳を澄ます
 
人の心と同じ
 
わかると思っているだけ
 
時々
意味があるようで
意味を探すけれど
それはただのノイズ
意味などわかるはずがない

愛しい空

少し淡く深くなった9月の朝の青
綿雲がふわふわと彩る空は
いつか見たヨーロッパの油絵

 

構図の半面に張り巡らされた
蜘蛛の巣のような電線は
完璧な自然に人間が施した 

悪意のない暴力のよう

 

私はその空を見て
電線も電柱もない完璧な空を想像する
青はただ青く、淡く
雲はただ白く、たなびく

 

美しいけれど 現実味のないこの街
築き上げた全てがなかったことにされる原始

 

もう一度空を見る

蜘蛛の糸と同じ 

生きるための

電線の向こうの空は美しく
電線が行きつく窓には
今夜も明かりが灯る

 

蜘蛛の巣のように張り巡らされた
私たちの便利

誰かが張り巡らしてくれた
私たちの暮らし

 

蜘蛛の巣のある景色は
蜘蛛の巣のない景色より
完全な自然より
愛おしい

 

 

着地

ある日 緑の風が吹いて

 

弟や妹がピンクの花びらを揺らして

行ってらっしゃいって笑った

 

緑の風はどこまでも

私と走りたがったの

 

気づいたら風がやんで

私はふんわり着地した

おうちと同じ土のにおい

懐かしいにおい

 

ここが旅の終わりなのか

わからないけれど

 

ちょっと疲れたみたい

とりあえずここで 少し休もう

 

空へ

くるり くるくる くるん

 

ふわり ふわふわ ふわん

 

花びらのワルツのDNA

 

小さな命は 空に向かって旅立つ準備

飛べるかな どこか見知らぬ場所に

 

パパやママがくれた綿毛を

せいいっぱい広げて

 

あの空に

 

一番高い鉄塔にとまり

彼が世界を見渡している

 

彼は美しい

 

彼の翼は夜の闇より黒い

彼のくちばしはエボニーより滑らかで

彼の瞳は黒曜石よりつややかだ

 

でも 彼を見るとみんな嫌な顔をする

誰も彼をほめない

誰も彼を愛さない

 

彼の声はあんまりきれいじゃなくて
あんまり上手に歌えないからか

 

光るものが好きで
見つけたらすぐほしがるからか

 

彼が彼だから
好きになってもらえないのか

 

彼が生きるために
していることは悪か


彼の存在は
忌むべきものなのか

 

彼の自慢の
翼 くちばし 瞳

その美しさを
誰も否定しないが

 

彼は
いつも邪険にされる

 

一番高い鉄塔にとまり

世界を見渡している彼は

 

本当は

私なのか