Stanza della Luna

雑多な詩集

旅立ち

めったにもらわない花束だから

ドライフラワーにして残した

誰からもらった花なのか

もう忘れたころ

次の別れが来る

 

この町がこわくて

早く離れることを望んでた

 

窓から見える景色が

日常に変わったころ

旅立ちの時が来る

 

この町を離れる 勇気を下さい

 

不安が波のように押し寄せて

やさしい人の笑顔ばかり 浮かんでしまう

 

この町を離れる 勇気を下さい

 

やさしいことばは うれしい

やさしいことばは かなしい

やさしい思い出は うれしい

やさしい思い出は かなしい

 

やさしいことばも思い出も

元は日常のstruggle

また新しい日々がはじまる

 

だから大丈夫

きっと大丈夫

 

またあたらしく 頑張ればいい

 

この町を離れる 勇気はいらない

 この町は私の 一部になるから

 

雨の音がする 全てが穏やかに濡れる

昨日まで着てた真冬のセーターじゃ もう笑われる

だけど

 

そんなに急に春にならないで

 

やっぱり もう少し この町の日常を

もう少し 下さい

 

遠くから この町を愛する 強さを下さい

下弦の月

駐車場の空に浮かび上がる 

春の下弦の月

切れそうに細くて

消えそうに淡くて

ぼんやりと浮かぶ

 

悲しみや寂しさを受け止める

女神の手のひら

全ての涙を注ぐ杯

 

だけど今夜の月は

欠けたはずの満月と同じだけ

ぼんやりとした悲しみ、寂しさ、涙の影

抱えきれないほど映してる

 

ここにも私の涙を注ぐ場所はなくて

 

満月のような寂しさを胸に抱える

私とよく似た春の下弦の月

ぼんやりと浮かぶ

 

stories

ある日電車の 同じ車両で会った 

とめどなく涙を流していた人

赤信号の 道の向こうで花を 

大事そうに抱えて待っていた人

 

私と関わりのないはずの 

遠い生活の一コマなのに

 

そんな風に 街のどの風景も 切り取ればそれぞれの物語になる

そんな風に 街のどの風景も 痛いほど 悲しみや喜びにあふれている

 

一人バス待つ 重い荷物の老婆 

真っ黒に日焼けした交通整備員

上着を脱いで空仰ぐ営業マン 

ギターケース背負って笑う少年

 

この手で受け止めるには 重く 

通りすぎるには よく似すぎている

 

そんな風に 街のどの風景も 切り取ればそれぞれの物語になる

そんな風に 街のどの風景も 痛いほど 悲しみや喜びにあふれている

春の魔女

雪と氷に閉ざされた町に

優しい魔法が忍び込む

 

静かな夜に屋根を打つ雨音に

凍り付いた全てが

溶けだす気配満ちる

 

重く固い根雪も

やわらかな しずくになって

 

地面の中 音も立てず

小さな種が目を覚ます

 

縮こまった木々の枝が

花を咲かす準備を急ぎ出す

 

今年の春の魔女が 

町中に降り注ぐ最初の雨は

全てを優しく濡らして

氷の魔術は もう解ける頃

 

氷のとげが心に刺さった私は

身動きの取れない

長い冬に どこか

安住していたけれど

 

春の魔女が

この町に来る頃

私も旅立つ 準備を始める

思い出せない

更地に新しい建物が建つ

 

ほんの数ヶ月前までそこに何があったのか

思い出せない

 

 

心をふるわせる

コトバの綾が 確かに横切った

 

なのにその模様が どうしても思い出せない

 

 

胸を焦がして想ってた人とすれ違う

 

その人に焦がれたのか

自分で作り出した幻想に恋したのか

もうそこにときめきはなくて

 

愛し方が思い出せない

 

 

日曜だというのに早起きして

掃除や洗濯、とくるくる働いた

 

なのに 最近 まぶたが開かない

 

やるべきことはある

 

なのに 昼過ぎまで 

起き出すすべが思い出せない

 

 

しょっちゅうおどけて はしゃいでいた

 

でも最近は ひたすら自分を保つ

 

架空の自画像を 失うのが恐い

自分を捨てる あの瞬間が思い出せない

 

 

思い出せない過去は 私のさなぎだったのか

それとも逆らう流れの背後で

ただ深い淵に 落ちて行ったのか

いつだったか 小さな結論に行き着いた 気がするけど

思い出せない

思い出せない

器用貧乏

とりあえず たいていのことは それなりにできる

あれこれと 手を出しては 自分を開拓

 

もう少し これをやる時間があればなあ・・・

あれも これも 中途半端 そしてパニックになる

 

いわゆる器用貧乏 いろんなことに興味がある

だけど だけど 何一つ 一流には出来てない

 

なまじっか 理解力があり それなりにわかる

適当に 頭も使って 頑張ってるほう

 

その先に 何かある いつも期待して

どれも これも やり切れない そしてパニックになる

 

いわゆる器用貧乏 不器用であり 器用であり

きっと きっと 探してる 本当の自分らしさを

luna piena

遠くへ来た

ここまで来た

 

こんなに遠くまで 来たと思ってた

 

歩きつかれた私は

道ばたに腰を下ろす

 

ぽっかり浮かんだ満月が

私を見ている

 

透き通った満月が

私を見ている

 

うさぎなんかいない

かぐや姫もいない

でも 同じ月

ずっと同じ月が私を見ている

 

こんなに遠くまで来た

逃げるようにして

休まずここまで来た

 

「まだこんなところだった」

 

それが悲しくもあり

どこかあの満月のように

透き通った私の体を

風が吹き抜ける

そんな気がした