Stanza della Luna

雑多な詩集

ほんとうの宝石

凍りついた根雪が溶けるころ

白い花があちこちに咲き乱れる小さな町

 

夏にはそよ風が緑の葉を揺らし

秋には赤い果実が実る

 

その町の空は

山に切り取られた四角形

空の果ては見えない

 

何だか退屈で

少しうんざりした少年は

どこか遠く 

まだ見ぬ場所にきっとある

すごい宝物を夢見て 

ある日町を出た

 

曲がりくねった道を歩き続け

少年はやがて大きな町にたどり着く

 

そこには何でもあって

見たことのない食べ物や

夢みたいにきれいな色の飲みものや

お腹に響いてくるような音楽に

少年はときめいた

 

みんな楽しそうで

おしゃれな服を着て

にぎやかな通りを行き交うのを

少年はうっとり眺める

 

「ここで僕は 僕の宝物を探すんだ。」

 

 

ある日 少年は気づく

その町の空も

ビル群に四角く切り取られて

空の果ては見えない

 

「おまけにここは星も見えないんだね。

僕が生まれた町は・・・」

言いかけてやめた 

 

宝石みたいな街明かりが一晩中灯って

眠らない夜をさまよう人たちは

まるで魔法にかかったみたいに

笑いさざめいていたけど

 

次の日少年が通りかかった

昼間の裏通りは

薄汚れて、みすぼらしくて

まるで違う場所みたい

 

きれいにお化粧をして笑ってた女の人が

疲れた顔で窓の外をぼんやり見てる

 

解けてしまった魔法と引き替えに

彼女は何を犠牲にしたんだろう

 

少年はとても苦しくて

山に切り取られたあの小さな空が

たまらなく恋しくて

 

夜になったらまたたく満天の星

晴れたらどこまでも澄んだ青

優しい朝焼けや夕焼けがいっぱいに広がる

小さなあの空が恋しくて

 

曲がりくねった道を

少し疲れた足取りでたどり

少年はあの小さな町に帰って来たんだ

 

そこには何もないけど

小さく切り取られた空の端に

傾いた夕日が

夢みたいにきれいなオレンジで

赤く色づいた林檎の実を照らして

数え切れないほどの真っ赤な宝石が

暖かな輝きを放っている

 

「僕の宝物 見つけた。」

 

少年が小さくつぶやくと

誰かの「おかえり」が聞こえたみたい