Stanza della Luna

雑多な詩集

誰かの宝物

土砂降りの道路わき

ひしゃげたボールペンが転がってる

 

びしょぬれで

ボロボロで

ペンというより

ペンの残骸

 

触ったら手が汚れそうで

拾うのもためらう

 

ゴミになってしまったペン

 

ペンだけ落ちてるのは

いつも使う手帳にはさんでいたから?

 その人にとって一番使いやすい

お気に入りのペンだったの?

大切な仕事の相棒だったの?

 

その人はペンを

なくしたことに気づいて

がっかりしてるだろうけど

 

その人がたとえ今

このペンを見つけても

きっと拾わない

 

ペンとゴミ

 

ゴミとペン

 

誰かの宝物を

誰かのゴミにする

 

車の流れと

土砂降りの雨

悲しいひと

悲しいひと

あなたを想うと私も悲しくなる

 

だから私は

悲しいひとが  最初から

存在しなかったみたいに振る舞う

 

あなたの悲しみは

私の中にもいる


本当は  その悲しみを

誰よりも  理解できる

 

どうにかしてあげたくて

もがけば


きっと私は悲しみに溺れ

あなたより

悲しいひとになってしまう

 

ごめんね


だから私は

最初から  その悲しみに

出会わなかったふりをする

 

生きるため

悲しみから目を背ける


逃げ切れなくなるまで

夜明け

夜明けを待つ人に 誰かが言う

 「明けない夜はないよ」

 

どんな夜も明ける

 

 だとしても

 

月も星もない暗い夜

悪いことばかり考える眠れない夜

時計の針が止まったような長い夜には

どうしたらいい?

 

だけどやっぱり朝は来る

 

どこからか忍び込んだ

光が闇に溶け出し

蒼い闇がぼんやりと淡くなって

柔らかな光が闇を支配する頃

 

朝と夜の間に境界線なんてないけど

夜は光と調和しながら

朝に姿を変えるよ

 

 

雨上がりを待つ人に 誰かが言う

 「やまない雨はないよ」

 

どんな雨も上がる

 

だとしても

 

体の熱を奪う 冷たい雨

全てをさらっていく 残酷な雨

逃げる道さえ塞ぐ 侵略する雨

全てが元どおりになるの?

だけどやっぱり雨は止む

重い雲で覆われた空が
ほんの少し明るくなって

暗い雲の間から
優しい薄青い空が「久しぶり」って顔をのぞかす

雨の名残と太陽が出会って

時には空に 大きな七色の

光の輪ができる

 

長い夜の暗闇が続くとき

強くいるのは難しくて

途方に暮れてしまうけれど

 

夜明けは必ず来ると

言い古された言葉が

嘘だったことはない

永遠の欠損

世界の日だまりの何億分の1かは

その人の優しさと笑顔で出来ていたんだ

 

その人の笑顔が二度と戻らなくなって

世界の日だまりは急に縮んでしまった

 

なぜこんなに暗いんだろう

 

空気がやけに重くて

酸素が薄くて

足下の大地が消えてなくなりそうだよ

 

私の体はどんどん透き通って

だけど消えることはできなくて

泣くことさえできないんだ

 

どうやって笑おう

どうやって歩こう

どうやって息をしよう

 

光が欲しい

 

大事なものはいつも

なくしてから気づくんだ

 

その人の優しさと笑顔が

世界を照らし、暖めてくれていたこと

 

ある時は日だまりの一部で

ある時は太陽そのものだったこと

 

その人の笑顔は二度と戻らないこと

 

今は救いがない

 

だから朝を 

光を待つんだ

 

 

 

 

 

 

 

孤独の温度

誰かといれば温かくて

その場所は日だまりみたいに明るい

 

だけど私は知ってしまった

 

誰かといるからさびしくて

誰かといるから心が凍るのだと

 

孤独は深い海の底に似て

太陽の光も

鳥のさえずりも

愛しい生命のぬくもりも

届くことは少ない

 

そして

凍てつくことも

 

孤独に温度はなくて

嵐も

傷つける刃もない

 

ぬくもりも

冷たさもない

真空のような静けさ

 

孤独の温度が

今は心地よい

 

ペンのかけおち

私の小さなペンケースは

ペンを4本も入れたら

ぎゅうぎゅうになる

 

いつもは赤と黒

ペンは2本だけ

 

ある日開けたら

1本ペンが増えてる

 

見覚えがあるような

ないような

黒いペン

 

なくして困っている人いるかしら

でもしばらく持っていればいいかしら

 

きゅうくつなペンケース

黒2本 赤1本

そのまま持ち歩いてた

 

数日後

黒いペン2本とも

いなくなった

 

あのペンは

迷子じゃなくて

私のペンを連れ出しに来た求婚者

 

ぎゅうぎゅうのケースでしばらく暮らしてみたけど

もっと広い世界で生きようと

私の黒ペンを連れていってしまった

 

そのまた数日後

私の黒ペンがまたケースに入ってる

 

ペンを4本も入れたら

ぎゅうぎゅうになる

私の小さなペンケースには

いつものペンが2本

 

どんな旅をして来たの?

 

聞いてみるけど

知らん顔してる

 

 

 

意味

当たり前にあったものが消える

私はここにいる

 

そして私は

なくした人やものの数 かぞえてばかり

 

世界は流転し続けて

いつか私は

ひとりぼっちになって

ひとりぼっちで旅立つ

 

さびしさや、よるべなさに呑み込まれて

息が苦しくなるのは

私が自分のことばかり考えているから

 

人に優しくすることより

優しくされることを求めて

人に頼られることより

頼ることばかり考えてる

 

私の足下にはまだ踏みしめる地面があって

それを踏みしめる力も残っているのに

 

見えない大きな存在が仕組んだ

美しく神秘的で、残酷な営みの中

進化しながら

生存競争に勝って

優秀な遺伝子を次につなぐ

 

生きものとして生きる意味が

そこにあるとして

 

何も残せない

私は敗者に過ぎない

 

惑星の46億年

宇宙の138億年の年月で

名もなき生を生きた

勝者という光と対の影に必要な

数限りない敗者達のひとり

ひとりじゃないひとり

必要なひとり

 

最初から意味があるようで

意味なんて永遠にないのかもしれない

意味を生み出すのは

見えない大きな存在じゃなく

もがきながら生きる 小さな私

 

なくした人やもの かぞえながら

与えてもらったもの かぞえながら

この足下の地面を 一歩一歩踏みしめて

 

与えた人

 

いつかその数に入れるよう

生きればいい