Stanza della Luna

雑多な詩集

星と雨と傘

久しぶりに今夜は 星がよく見える

時間を忘れて ずっと見上げていた

 

あなたと出会うまでは ずっと一人だった

一人に戻った それだけのはずなのに

 

出会う前より 孤独なのはどうして

あなたといたせいで 弱虫になったのかな

 

あの星降る空を あなたと見上げた夏

夜も 星も 風も 草の匂いも

永遠だと思っていた

 

今夜の星は少し 寒そうに震えてる

私はくしゃみを一つ 窓を閉め 灯りをつける

 

忘れかけた風景 ふっと思い出す

びしょぬれの傘と びしょぬれの私たち

 

あなたを雨から守る 傘になろうとした

本当は私に 必要な傘だった

 

出会う前より 孤独になってしまった

あなたといたせいで もっと孤独になったの

 

あの雨降る秋に 私の傘は小さく

肩も 袖も 靴も 抱えた本も

二人とも びしょぬれで

乾かすぬくもりの場所 二人とも探せなかった

僕の記憶

僕の最初の記憶は
冷たい雨に濡れた段ボールのにおい

寒くて さびしくて お腹がペコペコで
他にどうしようもなくて 
ただ鳴いていたんだ



僕の二番目の記憶は
白い壁と天井とミルク

暖かくも 寒くもない がらんとした部屋で
かわいたタオルに包まれて
ようやくぐっすり眠れた



僕の三番目の記憶は
また段ボールの中

逃げようとする僕を 
知らない人間が
段ボールごと持ち上げて
うなるような音がすると
地面がすごいスピードで動き出して 
こわくて
僕は段ボールのすみっこで 
震えていたんだ



その先は 僕の生活の記憶
にぎやかで なんだかごちゃごちゃした部屋

たくさんの人の手が
僕をなでようとしたり 
抱っこしようとしたり
毎日 食べ物をくれたり
一緒に 遊んだり 
散歩したりするようになった

みんなで 僕をなんて呼ぶか 勝手に決めたよね
僕の意見なんかちっとも聞かないで

でもさ 僕は嬉しかった
名前のなかった僕を 
”タロウ”って呼ぶみんなの声が
すごく優しかったから

朝 目が覚めると 
みんなが起きてくるのが待ちきれなくて
夕方 みんなの足音が聞こえると 
早く会いたくて 嬉しくて
夜中に 悪い人や動物が近づくと 
頭にきて

その度 僕は大声で鳴いたから
しょっちゅう みんなに 怒られたけど
僕はみんなが大好きすぎて
怒られても また同じこと 
繰り返してたっけ



春夏秋冬 
季節も繰り返して
きれいな花や 珍しい虫を見つけては
僕はいつだって 
はしゃいでいたけど
夏と冬はちょっと苦手だったな

だって夏はすごく暑くて 空が急にゴロゴロピカピカする上に
時々 夜空が明るくなって 
ヒュー、ドンドンって とてもこわい音がしたし

冬はお庭が真っ白になって とても楽しかったけど
屋根からドスン、ドスンって 重いかたまりが落ちてきて
こわくてたまらなかったんだ

みんながそんな僕を見て 苦笑いしてたのは
なんとなく知ってたけど
仕方ないでしょ

ずーっとあのまま 
一緒にいられると思ってたけど

一番小さかった僕は
気づいたら みんなの中で 
一番おじいちゃんになってた

少しずつ
前みたいに 走れなくなったし
前みたいに ご飯も食べられなくなった
だけど みんなが 前みたいに優しくて
だから 僕はずっと幸せだった



ある日 
僕は立てなくなって
水も飲めなくなった

遠のく意識の中で
みんなが僕を
”タロウ”って呼ぶ 
優しい声を聞いてたんだ



僕の記憶はここで おしまい




今 僕は空の上にいて
もう一緒にいられなくなってしまったけど
みんなの幸せを願ってる

家族にしてくれてありがとう
たくさん優しさをありがとう

思い出は終わりでも
願いと想いは 続いているんだよ

絶望

悲しさの本体が 自分でもわからないんだ

カナヅチみたいに 沈んでいく自分は

自分じゃすくえない それだけね

 

まるで10代の頃のように トゲだらけになって

自分が刺した誰かの痛みに

自分が血を流している

 

何かを求めているのに

求めてないと思ってる

ささやかな期待感は

裏切られ続けるから

 

免疫を作っても 作っても

底なしの絶望は 私を圧倒する

 

「受け止めて」 「受け止めて」 「受け止めて」

 

満たされない

ただそれを繰り返してる

つむぐ

たくさんの気持ちがよどんで

うずまいて からまって あふれる

 

たくさんの気持ちを言葉に

つむごうとしている 私がいる

 

つむいで 編んで ほどく

つむいで 編んで ほどく

 

指先からにじむ血に

言葉が染まる

 

だれかがつむいだ 言葉をたぐれば

安らかに 暖かく

 

だれかがつむいだ 言葉をたぐれば

冷たく 寒くて 嫌悪感がする

 

つむいで 編んで ほどく

つむいで 編んで ほどく

 

時には 虹のように

天上の輝きを放つ

 

私は 言葉を憎み

私は 言葉を愛す

痛いほど

 

たくさんの言葉が また

よどんで

うずまいて からまって あふれる

かなしいカナリア

あの人は暖かい 大きな手をしてる

 

あの人の両手の中なら 

張りめぐらしたバリアが消えて

小鳥みたいに眠れるって

思い始めたころ

 

「うまくいったんだ」

 

嬉しそうなあの人に

何も言えるはずないじゃない

 

かわいそうなカナリア

あなたはいつもかごの中で

一人で歌うのが

とても上手ね

 

unknown good-bye

昔好きだった人が結婚したらしい

優しい話し方をする よく知ってる人と

 

もう好きなんかじゃないから

悲しくはないけど

 心の奥の うすいガラスのすみっこ

小さく音を立てて ひび割れた

 

人知れぬ小失恋

”お似合いの二人”と心から思う

なのに弱いすきま風みたいなの 

吹いたみたい

そういえば あの頃も 人知れずフェイドアウトした

本当にさよなら 私の小さな失恋

 

 

春の光によく似た 笑顔の人だった

私の気持ちにちっとも 気づかない人だった

 

もう好きなんかじゃないけど

どうしてるかなって

時々ふっと思い出したりしていた

あの子となら良かった She was your missing piece.

 

人知れぬ小失恋

あの時 もう少し勇気があったら

もしかしたら今一緒にいたかな 

一瞬だけ

考えて あらためて 理解した 終わった恋

本当にさよなら 私の小さな失恋

 

A Bird Tree

川べりで 梢を広げた木が

たわわな果実を 誇らしげに実らせてる

 

次の瞬間 強い風が吹いて

はばたいた果実たち

 

枝は空っぽになった

 

それぞれの空を飛んでいく 鳥の実

見送るようにたたずむ Bird Tree

 

花は なにいろ?

葉は どんなかたち?

 

来年の春 花が咲くころ

この川べりに 見に来よう